尾張天心古流拳法


【 沿 革 】

尾張天心古流拳法は上野家伝の太古流を淵源とする。
流儀の発祥に就いては次の如く伝えられて居る。
大伴の久米部として皇居侍衛の任に世々奉仕した大伴氏の裔、大伴古麻呂は孝謙帝・天平勝宝六甲子年六月(西暦754年)に唐僧・鑑真ら8人を伴い帰国したが、鑑真の弟子の思託鑑禎と言う僧に拳法を講ぜしめ、家伝の体術にこれを加えた。
その後、卜部宿禰兼定が貞和年間(西暦1345〜1350年)、渡来した唐の殷王旭輪の臣孫・仁師季義と言う拳法の達人に伝授せしめ、天津鞴韜武門中の体術にこれを取り入れ打拳術とした。
出雲冠者義秀は是を馗神打拳体術として大成し、一子相伝の極秘伝として以後連綿として継承され、この流れが上野家に伝えられた。
流祖・上野辰右衛門隆幸は代々伊賀郷士・伴氏より出て上野氏を称し、天正年間・織田信長の伊賀攻略に敗れた一族と共に故郷を離れ、播州赤穂に移り住み、上野家伝の武術(太古流)を基礎にして、一傳流捕手・香取神道流・高木流を学び奥義に達し、慶長年間(西暦1596〜1615年)に天真流拳法を起流した。
二世・清水伴右衛門は、関口流・荒木流を学び、天真流に合流させた。
三世・市川四三二秀奥は、殺当流拳法・起倒流柔術・直心影流剣術を極めた。
四世・上野彦右衛門義之は、宝山流太刀術・柳生流柔術を極め、小田原の大久保藩に指南役として二百七十石で仕えた。この彦右衛門義之は流祖以来の達人で、一条不二流骨法の祕伝を加え、捕手術中「挫の術」を大成し、天真流の挫と称して他流に恐れられた。
五世・山本嘉助勝重は、高木流棒術の奥祕を極めた。

六世・上野柳吉郎利秀は、三和無敵流・心形刀流剣術の奥祕を極め、更に玉心流を継承し、相州小田原了尊寺で祈願をなし、大僧正より拳法・杖術・捕手術の神宣を得て、神道天真流拳法とし、老後は仙術に達した。
七世・上野九十郎信久は、幕末に佐幕に与して戦いに破れ、明治年間に横浜に道場を開き、特に拳法に優れ、当流武技に全面的改良を加え纏めた。

八世・上野貴天心は旧小田原藩士・祖父上野九十郎信久より家伝の神道天真流拳法を伝授され継承する。
他に、天神真揚流柔術・卜傳流柔術・柳生心眼流体術を修め免許皆伝。
浅山一傳流体術十六代宗家、本体高木揚心流柔術十九代宗家、神伝不動流二十代宗家、本体馗神澄水流九鬼神伝打拳体術三十九代宗家を継承する。
更には、琉球拳法、支那の少林拳を学び、大和古来の伝統を誇る各流の中より良き技を選び採り、家伝の勢法と合わせて受身の効かない勢法に大成し、神道天心流拳法とした。

昭和51年1月帰幽。
    八世・上野貴天心
九世・上野義明天心は武術の事に関しては兄、八世・貴天心翁が遺した門人に任せ、余生を静かに過ごして居たが、平成9年4月帰幽した。
故に、神道天心流(天心古流)の宗家は九世で終り、後は師範家に続く。
   九世・上野義明天心
富山県出身。
18歳より糸東流空手を始める。
30歳の時、天心古流拳法と出会い、十一世・日森定雄天心師範に師事し、拳法修行の道に入る。
その後、武道史家の島田貞一師範に杖術及び武道論を学ぶほか、尾上政美師範に捕手術、十二世・国松良雄澄心師範に拳法の教唆を受けるなど、上野貴天心・八世に私淑する。
平成元年7月、上野義明天心・九世より上野家傳天心流拳法の印可を受け、正武天心古流拳法と号する。
武芸が本来持って居た正しい理・真実の姿を後世に残すため、厳選した少数の門人達とともに、伝統諸流派、中国武術などの理合いをも取り入れ改良を続け、あらゆる武術の根源となる法を象水流掌法として纏め、伝来の天心古流拳法と併せて、正武天心古流拳法とする。
尾張天心古流拳法は、石田博昭静水がこれを継承したものである。


岩城象水師範のホームページhttp://www5.ocn.ne.jp/~syousui/
   初代・岩城英男象水

【 拳 法 理 念 】

天地の始まる時、物体も形象もない。この様な状態を「無」と言い、無は自然の本体であり、宇宙の本源でもある。
拳法も然り。人は無より作用を起こすと形象が現われる。其れを「有」と言う。即ち、自然の作用である。
凡そ物事には、見聞きする手がかりが無ければ、人はそれを知る事が出来ない。併し、天地の働きは深遠で微妙なものであって、万物と共に推移し、常に変化して止まる事が無い。

拳法の原理もまた天地の働きと同じ事である。
「変動して常なし、敵に因って転化し、事の先とならず、動けば即ち随う」
この様であれば、友人や親兄弟が非人道的な行為を受けた時に守護することが出来る。
これを活人手と言う。
活人手とは、永き習いより生み出す仁徳を言う。
いくら暴者無頼な者であっても制御し、押さえ込み、訓戒を与え懲らしめるのみ、決して殺傷しない事を言う。
併し、現今に於いては、強の術ばかり追求し、柔の道を求めようとする者が少ない。
柔の効用は伸縮自在で、相手の変化に応じて、いかようにも対応が出来る。
伸ばせば身体の末端まで行き渡り、縮めれば身体の中心に収めてしまう。
故に、柔ならず剛ならず、これを理想の理念とする。
老子曰く「弱は強に勝ち、柔は剛に勝つ。これが分かって居ながら、天下に誰一人と実行する者が居ない」と。
理想の拳法は水の如く下に立つ。
力で秩序を維持することなく、人間の良心に随う故、平穏無事である。
荒々しい気風も無く、争いごともせず、純粋で素朴である。
これを拳法の妙趣とする。

【 尾張天心古流拳法系譜 】

太古流     
    流祖  上野辰右衛門 隆幸
天真流     
    二世  清水伴右衛門 重久
    三世  市川  四三二 秀奥
    四世  上野彦右衛門 義之
    五世  山本  嘉助   勝重
神道天真流  
    六世  上野 柳吉郎  利秀
    七世  上野 九十郎  信久
神道天心流  
    八世  上野   貴   天心
    九世  上野  義明   天心
正武天心古流
    初代  岩城  英男   象水
尾張天心古流
    二代  石田  博昭   静水

【 天心古流拳法 相伝目録 】

◇拳法

◯青龍拳    十五法
◯猛虎拳   十五法
◯当身殺法  十五法
 
◯七十二門拳

◇柔術

◯初伝 上段之位  十二法
◯初伝 中段之位  十二法
◯初伝 下段之位  十二法
◯小手取之位     十二法
◯骨法之秘伝     十六法
◯中伝之位      十二法
◯奥伝之位      十二法
◯至奥之位      十二法
◯免許之位      十二法
◯片手取之位     十二法
◯居取之位      十二法
◯椅取之位      十三法
◯揮閃之位      十二法
◯皆伝之位      十二法
◯印可之位      十二法
◯霊拳伝     至妙拳(表裏二十四法・萬字之奥祕事)  
           応永霊気之法(六甲祕祝九字眞法及び早切法祕事)      

◇捕手術

〈 短棒伝(一尺三寸)〉
◯基本六法
◯初伝勢法      十五法
◯中伝勢法      十五法
◯奥伝勢法      十五法
◯皆伝勢法      十五法
◯奥祕双挫伝     十七法
◯奥祕双挫伝     胡蝶乱
〈 八寸挫伝 〉

◯五行之位       十五法
◯四季之位       十五法
◯月之位        十五法
◯日之位        十五法
◯唯授一人伝 
〈 半棒伝 〉
◯半棒五法之構
◯基本八法
◯半棒初伝      十二法
◯半棒中伝      十二法
◯半棒奥伝      十二法
〈 杖 術 〉
◯九通之型        九法
◯萬字之型        九法
◯前目録        十二法
◯後目録         九法
◯式杖之伝        十法
◯許杖之伝        十法
◯投杖           二法     

〈 手裏剣術 〉

八世・上野貴 天心翁愛用の万力鎖 天心古流で使用する一尺三寸短棒

【 象水流掌法 相伝目録 】

◯象妙之門( 機軸六法 )
花弁手  振武手  浮木手  練成手  円転手  撞捌手  
観掌手  八法体閃法  雲手  風手
◯歩六法 
基本捌  外 歩  内 歩  三角歩  入身歩  独楽歩  眉 歩
◯手解初伝 
霞 解  順手巻  綾手巻  綾手投  上 聯  下 聯
横 抜  綾手抜  片手差  両手差  両甲返  片甲返
◯手解奥伝
睦 月  如 月  弥 生  卯 月  皐 月  水無月
文 月  葉 月  長 月  神無月  霜 月  極 月
◯月山拳
双羽返  裏差毛  裏羽戟  裏振込  裏藪陰  気 羽  
裏朝霧  裏腰付  雲  水  隻  影  裏猛威  沖 天
◯武明拳
二 水  内 陣  倒 置  駆 使  破 竹  希 代 
光 華  山 容  上 差  陰 星  亜 流  弾 琴
◯風授拳 
駒 風  挟 返  釣 鐘  波 返  風 輪  谷 風
胡 蝶  銀 波  竹 生  打 吹  山 崩  水 鴨
◯暁鷹拳
将 風  山 陵  野 分  葉 陰  木 楯  波 状
差 毛  風 烈  筆 頭  猛 威  羽 戟  朝 霧
◯静水拳 
浮 葉  水見草  水 禽  流 露  緩 流  龍 泡  浮 木  飛 沫  
静 渦  水  鏡  遊 波  細 波  波 輪  残 水  渦 潮  羽 戟
◯拳法殺活法
砕き(十法)  殺法(二十六法)  十二時間之大要  活法(十法)  応急救護法  整法
◯拳法陰陽伝
一陽来復  陰陽交互  殺  活  純陰  純陽  一陰九陽  
二陰八陽  三陰七陽  四陰六陽  五陰五陽  陰陽虚実
◯拳法天象伝( 活人拳 )  
風揺枝  揺枝絡  咽喉鎮  卵抱捻  豹出牙  虎戯玩  木鶏折  鼓鳴旗  
竹伸反  蛙倒地  猫仔綾  雨通身  淘猪崩  尾振虎  雲龍爪  身化辺 
鶴発水  股打掬  鷹揚丘  鴻羽展  犬兎促  胡蝶飛  赴会手  鯉反腰
割草捨  獅子起  鶴翼関  猿偵手  酔羅漢  存一花  出戦破  三角返
腕捻開  鯉空観  蛇枝沿  身揺手  八甲渡  樹氷折
◯象妙之門( 無影伝 )
天象之歩 十四歩法
◯象妙之門( 発水求魚 )    
折木戸  枝 折  筒 切  脱 兎  狐 拳  肘 車  不知火
雪中松  桂 投  波之花  滝之花  疾 風  迅 雷  葉 陰
◯象妙之門 ( 円転滑脱 )
乾坤(一条〜七条)  手 車  銀杏返  水 車  立 錐  巴 藤  萬 字  
雨 下  浦 波  松 波  岩 燕  歩行渡  七里引  猿 橋  
◯象妙之門 ( 胡蝶双飛 )
桐之葉  青 柳  五月雨  山 風  木葉返  木 枯  笹之露  二連滝
手 枕   潮 菊  玉之緒  竹之花  雪 崩  萬 字  投  網  
◯象妙之門 ( 雲龍伝 )
雲龍拳
波 垣  龍 風  万 雷  瀧 登  臥 龍  雲 隠  炎 雲  龍 飛
峡 霧  光 輪  瑞 龍  雨 散  調 推  触 発  雲 龍
◯象妙之門 ( 風水伝 )   
風水之舞  
開 虎  龍 門  雲 手  腰 付  雫 石  波 掬  袖 挫  屏風返
小葉返  指 宿  摩 塁  と 革   木立伐  閂 返  盾 無  巴 藤
細 雨  入 違  一寸木  逆 生  手 車  万 字  五月雨  一丈落
高飛車  氷 筍  水 引   抱 龍  波 摘  麻手刈  樋 廻  片 雲  燕 返
◯象妙之門 ( 無極伝 )      
氷下魚  降 封  山 立  吹 上  山 笠  竹 符  茶 臼  白 玉
畷  中  玉 締  宿 祢  百合捻  抽 斗  順渦旋  逆渦旋
◯象妙之門 ( 風見草 )
辻 風  火 振  雨 田  鳥 落  円 月  回 月  振 子  発 破  
車 折  鼓 棹  棚 無  扇 指  角 崩  胡桃割  大 月  二条止
曳 舟  片 敷  夕 月  雲 切  山 車  早 瀬  逆 浪  知 足
鹿 角  大 糸  太 秦  十字返  袖車返  大外返  鞍 無  浮 草
◯拳法雲漢記( 活人手 )  
活人手八十四法及び相対手口伝
○拳法奇正変
奇正之変 七法
北辰伝 十二法
水月伝 二十法
山河伝 二十五法
◯浅山一傳流体術( 横浜伝 )
上段之位十二法  中段之位十二法  下段之位十二法  奥伝之位十二法
居取之位十二法  至奥之位十二法

〔 外 物 〕

◯拳法昔夢抄 ( 浅山一傳流無刀取 )
小刀取之位 十二法   太刀取之位 十三法
◯拳法昔夢抄 ( 一心流体術伝書 )
表手極 十五法   裏手極 十五法
◯拳法昔夢抄 ( 渋川流柔術伝書 )

【 参考資料 】

岩城象水著『天心古流拳法伝』全三冊
(島津書房刊)
『浅山一傳流体術伝書』
(ぴいぷる社刊)
ビデオ『岩城象水・正武天心古流拳法』
(クエスト刊)


以上

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